移住・創業インタビュー ゼロから挑む、
寒川での「自分流」農業と町の伴走支援

ゼロから挑む、寒川での「自分流」農業と町の伴走支援
野菜農家 迫田駿翔氏
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観光農園 長原順子氏

寒川町では、農業者の高齢化及び担い手不足、遊休農地の増加が喫緊の課題となっており、農業を志す「新規就農者」の受け入れと、経営の安定化に向けた支援に力を入れています。今回は、三浦市での農業研修を経て寒川町で農業を始めた迫田さんと、50代で早期退職し「観光農園」という新しい形を実現した長原さんに、就農までの道のりと町のサポートについてお話を伺いました。

現在の事業内容と
スタートした時期

本日はよろしくお願いします。まずは、お二人が今、寒川町でどのような農業を、いつ頃から始められたのか教えてください。

迫田さん: 私は2024年の12月末に寒川町へ移住し、翌2025年の2月から本格的に農業をスタートしました。現在は、夏はスイカやナス、冬はブロッコリーや大根などを中心に栽培しています。ちょうど就農から1年が経ち、寒川での1年のサイクルにようやく慣れてきたところです。

長原さん: 私は2023年の1月に寒川町へ来ました。そこから1年かけて準備を進め、2024年にブルーベリーの観光農園「さむかわブルーベリーファームnagi」をプレオープン、そして昨年(2025年)にグランドオープンを迎えました。一般的な農家さんと異なり、収穫体験を提供する「観光・体験型」の農業を主軸に、キッチンカーでの多角経営も展開しています。

現在の事業内容とスタートした時期

なぜ「農業」だったのか、
そしてなぜ「寒川町」へ

お二人が農業を志した動機と、数ある自治体の中から寒川町を選んだ経緯を教えてください。

迫田さん: 私は以前、10年ほど青果販売の仕事をしていました。店長まで務めましたが、次は「作る方」に回りたいと考えたのがきっかけです。三浦で2年間の修行をしましたが、独立しようとすると、三浦のような大産地は既存の農家さんで農地が埋まっていて、新規の人が入り込む余地がありませんでした。 そこで横浜や平塚などを回ったのですが、条件が厳しかったり(※1)、窓口でも親身に相談に乗ってもらえることばかりではありませんでした。
そんな折、藤沢市・茅ケ崎市の窓口で、「2市1町の広域連携を結んでいる寒川町は比較的農地が多く、移住者にも柔軟に対応してくれるよ」と勧められました。(※2)実際に寒川町役場へ行くと、ゼロからの相談にもかかわらず1個ずつ親身に対応してくれて。この町なら挑戦できると思い、移住を決めました。

長原さん: 私は50代で早期退職をしたのですが、もともと組織の中にいると、「こうした方がいい」と提案しても勝手なことをするなと怒られ、縮こまってしまうのがストレスでした。人に喜んでもらうことが好きなので、腹をくくって、自分の好きなように思い切りやりたいと思って脱サラしました。 もともとオートバイが好きで、ライダーが集まれるカフェをやりたいと思っていた時、ブルーベリー栽培とカフェを両立している方の存在を知り、「これだ!」と直感したんです。いざ農地を探す際、修行先であった近隣市の窓口にも相談に行きましたが、「競争率が高く、新規の人がすぐに使える農地が見つかりにくい」状況でした。その足で寒川町役場へ向かったところ、担当の方がすぐに話を聞いて受け入れてくださった。この「一緒に考えよう」という姿勢に救われ、寒川で挑戦しようと決めました。

(※1) 新規就農の要件について
寒川町で非農家出身の方が新規就農(自ら農地を借り受けて経営を開始)する場合、主に次のいずれかを満たす必要があります。

  • (1) 神奈川県立かながわ農業アカデミー等で1年以上就学し卒業した者
  • (2) 神奈川県内の認定農業者等から、1年以上かつ年間1,200時間以上の研修を受けた者
  • (3) 神奈川県内の農業法人に、3年以上正社員として雇用されていた者(町内での就農経験は必要ありません)
    ホームページも参考にしてください。

(※2) 2市1町広域での取り組み
寒川町では藤沢市・茅ヶ崎市と連携し、就農要件を揃え、町外からの移住者や、他市での研修修了者であっても広く就農者を受け入れています。相談者の希望があれば、2市1町で情報を共有し、市町を超えてバックアップします。
また、合同で年に1回「新規就農者の集い」を開催し、市町を超えて先進農家や種苗会社への視察や勉強会を行い、新規就農者同士の繋がりや情報交換の場となっています。
参加者からは「自身の栽培の参考になった。」「農家さんなどから直接具体的な話が聞けるため参考になる」「農家さんと知り合うきっかけとなる。今後も情報共有していきたい。」といった意見をいただいています。新規就農者の希望を参考に視察先を決定しています。

難所「農地探し」と
町の「マッチング力」

農業を始めるにあたって最大の難関と言われる「農地探し」ですが、お二人ともやはり苦労されましたか?

長原さん: 本当に大変でした! 地図を片手に自分で一軒ずつ農地を歩き、目星をつけた地主さんの自宅を「ゲリラ訪問」して、お風呂上がりの地主さんに「ここでブルーベリーをやりたいんです!」と熱弁したこともありました。

迫田さん: 私も農地を求めて1年くらい歩き回りました。実績のない「よそ者」に大切な土地を貸すのは、地主さんにとっても大きな不安なんですよね。

長原さんは観光農園を想定されていたので、探す土地の条件もさらに厳しかったのではないですか?

長原さん: そうなんです。駐車場やキッチンカーの設置を考えていたため、通常の農地探し以上にハードルが高くて。

それは心が折れそうになりますね。

長原さん: 「条件に合う土地は到底見つからないのでは」と諦めかけたこともありましたが、役場の担当の方も親身になって知恵を絞ってくださり、最終的にはなんとか開業できる土地を見つけることができました。

迫田さんの場合、最終的に農地を借りられた決め手は何だったのでしょうか?

迫田さん: 結局、町から紹介していただきました。相談から半年ほどかかりましたね。

念願の農地ですね! すぐに栽培を始められたのですか?

迫田さん: いえいえ(笑)。貸してもらえたのは草が生い茂る「耕作放棄地」のような場所でした。そこからトラクターで4、5回耕運して、土作りから自分で開墾していったんです。新規就農ですぐに使える綺麗な農地なんてまず用意されていないので、そこは宿命ですね。

(※3) 寒川町の農地マッチング支援
農地を貸したい地主と借りたい就農者の情報を集約してマッチングを支援しています。

【ご相談にあたってのお願い】
窓口でのご相談をよりスムーズかつ具体的に進めるため、事前にお電話やメールでご予約のうえ、以下の項目についてご自身のビジョンを整理してからお越しいただくことをお勧めしております。

  1. 耕作希望エリア(宮山、岡田など)
  2. 希望耕作面積
  3. 希望栽培方法(有機栽培、慣行栽培、ハウスの設置希望 など)
  4. 現在の状況(これまでの農業経験、自己資金の目安 など)

具体的な計画をお持ちいただくことで、よりご希望に沿った農地のご紹介や実務的なサポートが可能となります。
※ご相談時にご持参いただく「新規就農相談カード」は、町ホームページからダウンロードいただけます。

創業資金と
「認定新規就農者」のメリット

農業は初期投資が必要になりますが、お二人はどのような準備を進めましたか。

迫田さん: まず大前提として、就農前の研修期間(私の場合は2年間)はほぼ無収入になるため、生活費として最低でも200万〜300万円は手元にキャッシュを残して準備を始めた方がいいですね。実際の初期投資としては、私は日本政策金融公庫の融資を活用してトラクターなどを揃えました。また、JAの補助金も活用させてもらい、トラクター代として約30万円の補助が出たのは非常に助かりました。そして、国の補助金(経営開始資金(※4))も活用して、営農の基盤を整えました。

長原さん: 私の場合も、井戸掘りだけで約170万円かかるなど、やはり初期投資が必要でした。資金面では私も公庫の融資を活用しましたが、こうした支援を受けるために一番大きかったのが、町から「認定新規就農者(※5)」の資格をもらったことです。 この資格を得るための計画書づくりでは、農業アカデミーの先生がメールで何度も添削してくださり、1年かけてしっかりとした事業計画を練ることができました。それが融資の審査を通す上でも大きな信用に繋がりました。

迫田さん: 国の補助制度の要件は満たせるように準備は進めるべきだと思います。寒川町の良いところは、広く柔軟に就農者を受け入れているところだと思いました。他市で相談したときは、「市内で研修を受けること」が就農要件となっていることが多く、この受け入れ体制には助かりました。
寒川町は町外から来た人間でも、しっかり計画を持って相談に行けば、まずは話を聞いて検討してくれます。他市で断られてしまった私たちにとって、この受け入れの体制は本当に助かりました。

(※4) 経営開始資金
次世代を担う農業者を支援するため、就農直後の経営確立をサポートする資金(年間最大150万円、最長3年間)を交付する制度になります。
最新の要件はホームページでご確認ください。

(※5) 認定新規就農者制度
新たに農業を始める人が作成した「青年等就農計画」を市区町村が審査・認定し、その認定を受けた人(=認定新規就農者)に対して、国や自治体が集中的に支援を行う制度です。就農初期の厳しい時期を乗り越え、早く経営を安定させることを目的としています。

現場での洗礼、
そしてコミュニティの力

実際に農業を始めてみて、自然相手ならではの「洗礼」や苦労はありましたか。

長原さん: 害獣の洗礼を受けました。タヌキにチューブを噛みちぎられて噴水のように水が噴き出していたり……。でも、収穫期にお客さんが「美味しい!」と喜んでくれる姿を見ると、すべて報われますね。

数日前に雪が降りましたが、影響はありませんでしたか。

迫田さん: 影響はありました(笑)。寒川の冬は予想以上に寒さが厳しくて。キャベツなどは一度凍っても日中に解ければ大丈夫なのですが、氷点下の日が何日も続いて「凍ったまま解けない状態」になってしまうと、傷んでダメになってしまうんです。それで半分近くやられてしまったこともあります。

現場での洗礼、そしてコミュニティの力

そうした苦労もある中で、寒川で農業を始めたメリットを感じることがありましたか。

迫田さん: 出荷にあたり、最初は自分で東京まで運んでいたんですが、往復の時間がもったいなくて。今は主にJAの直売所「わいわい市(※6)」に出荷しています。自分で値段を決められますし、お客さんの顔が見えるのが良いですね。それに、わいわい市に出荷している先輩農家と仲良くなると、「堆肥を無料でもらえる場所」を教えてもらえたり、使わなくなった農地を貸してもらえるようになったりと、実質的なメリットがすごく大きいんです。人間関係を築くことが一番大事ですね。

迫田さんは、学校給食センター(※7)にも野菜を卸していると伺いました。

迫田さん: はい、キャベツや大根を出荷しています。自分の作ったものが地元の子どもたちに消費されるのは、農家としてすごく気分が良いですね。

長原さん: 私も今、若手で集まる「寒川ジンジャー生産組合」の活動に参加しています。農業は自分一人でやっていると孤独になりがちですが、こうやって仲間と情報交換したり切磋琢磨できる繋がりがあるのは、寒川ならではの強みですね。みんなで一つの耕作放棄地を開墾して生姜を作るプロジェクトです。
また、キッチンカーの関係では、商工会議所に入って産業祭りに声をかけてもらったり、茅ヶ崎の飲食店組合に入って出店場所を紹介してもらえたりと、事業を広げる横の繋がりがどんどんできています。

(※6) JAさがみファーマーズマーケット わいわい市寒川店
JAさがみが運営する大型農産物直売所。町内の農家が栽培した野菜や花卉(かき)などの農産物を中心に販売しています。

(※7) 寒川学校給食センター
町内の小中学校での完全給食のスタートに伴い、令和5年9月に開業した施設です。毎日約4,200食の給食を作っており、寒川町内で採れた新鮮な野菜を給食の食材として積極的に買い取っています。食育や地産地消の推進はもちろん、地域農家にとっての「新たな販路(出荷先)」としても大きな役割を果たしています。

(※8) 寒川ジンジャー生産組合
令和7年度に発足し、新規就農者の活性化、耕作放棄地の有効活用、および地元の料理飲食業協会と連携した地域の活性化などを目的に、新規就農者が中心となって新たな特産品を目指し、生姜の生産を行っています。

今後の目標:
寒川を「稼げる農業」の地に

就農されてから、経営のほうは順調ですか?

長原さん: ブルーベリー狩りのシーズンは、検索して来てくれるお客さんで予約がすぐ満席になるほどです。寒川神社もとても人気なので、神社観光のついでに来てくれる方もいますね。ただ、現在は創業期でもあり、ブルーベリーが採れないオフシーズンの収益確保など、資金面が一番辛い時期でもあります。しかし、ブルーベリーの木は5年経つと大きく成長して収穫量も跳ね上がると師匠から言われているので、今は辛抱して頑張っています。

軌道に乗り始めた今、お二人が描いている今後のビジョンも含めて教えてください。

長原さん: そのオフシーズンの課題を乗り切るため、来シーズンからは観光農園の延長線上で「サツマイモ掘り体験」を本格的に導入しようと計画しています。観光農園としてまだまだ伸びしろがあると思っているので、人が集う場所を提供することで地域貢献していきたいですね。

迫田さん: 私は、修行先の三浦市のような「強い産地」のモデルを寒川でも作りたいんです。三浦では、全員が同じ規格で大量の野菜を作り、市場で強い力を持っています。寒川はまだ個人の裁量が大きいですが、これから若い就農者が増えてきたら、チームとして同じ野菜を作り、安定して稼げる「産地」としてのブランド力を高めていきたい。そうすれば、次の世代がもっと入りやすくなるはずですから。

未来の就農者へ
メッセージ

迫田さん: 農業は気合と根性、そして数字で考える経営者感覚が必要です。まずは「1日中、外(畑)に立っていられるか」が一番大事。夏も冬も、甘く見ない方がいいよと伝えたいですね。私は三浦の研修で「1日に5000本の大根を抜いて洗う」という経験をしたので、それが「自分にもできる」という大きな自信になっています。学校で学ぶより、実際の現場で体を動かした方が絶対に勉強になりますよ。それができれば、寒川は最高のフィールドです。

長原さん: お金を借りて農業を始めるなら、事業計画をしっかり作り、漠然とではなく「数字」を意識することがとても大事です。また、ブルーベリーなどは初期投資がかかりハードルが高いので、困ったことがあれば自分からどんどん役場に出向いて相談してみてください。寒川はちゃんと受け止めてくれる町です。

プロフィール

迫田 駿翔氏(野菜農家)
東京での青果販売店長を約10年務めた後、三浦市で2年間の農業研修を経る。2024年末に寒川町へ移住し、翌2025年2月に新規就農。「わいわい市」や新設された学校給食センターへ、季節の露地野菜を出荷中。
長原 順子氏(さむかわブルーベリーファームnagi 代表)
50代で早期退職し、2023年に寒川町へ移住。観光農園型農業を志し、2024年にブルーベリー農園「さむかわブルーベリーファームnagi」をプレオープン。キッチンカーでの多角経営も展開し、若手農家のプロジェクトなど地元コミュニティでも活躍中。

寒川町移住定住ポータルサイト

寒川町役場 企画部広報戦略課
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TEL:0467-74-1111(代表)

※本事業には、川崎競馬の収益があてられています。